第9回 蘇るパソコン購入読本(1)
骨董品データ
書籍名 | パソコンの上手な選び方 |
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著 | 沢彰記・粕谷幸秀 |
出版元 | 日本実業出版社 |
発行年 | 1991年 |
定価 | 1200円 |
コメント | 筆者のパソコン利用史に燦然と輝く初めて買ったパソコン購入指南本。 |
筆者のPCバイブル
今の時代。大部分の人がパソコンを使っているかと思います。一家に1台。あるいは1人1台。中には1人で2台も3台も使っている。 はたまた家にはないが職場で使っててる………など。数に違いこそあれど、パソコンは生活になくてはならない存在になりつつあります。
ここで皆さんにお聞きしたいのです。
「初めてのパソコンはどうやって手に入れましたか?」と。
友人に勧められて買った。なんとなくデザインで選んだ。もちろん性能重視
……聞いた人の数だけ答えがありそうです。
筆者が「パソコンが欲しい」「パソコンを買いたい」と思ったときは、周囲にパソコンの情報はありませんでした。 インターネットは普及していなかったし、パソコンについて教えてくれる友人はごく一部でした。
そんな時やはり役に立つのは本や雑誌です。パソコンを購入する前提知識として、筆者は近所の本屋に売っていたこの本を読んでこの世界の情勢を垣間見ました。
今回ご紹介するのは、筆者がパソコンの世界を知るきっかけとなってくれた本。
いわば"バイブル"とも言うべき本「パソコンの上手な選び方」です。
失敗しない、後悔しないパソコン選びのために!
*「よーし、パソコンを買うぞ!」決心したのはいいものの、イザとなるといろいろ悩みや不安が出てくるのがパソコンです。
*そんなあなたのために、自分でパソコンを選び、活用していくのに、これだけは知っておきたい知識を、初歩の初歩からやさしくお教えします。
*はじめてパソコンを購入しよう、これからパソコンを始めようという人のため、安心読本です。
現在、Windowsが動くパソコンなんてどのメーカーのものを買っても大差ありません。デザインがどうのこうのノートPCならバッテリーが何時間もつ……という細かい違いはありますが。
ところがほんの少し前(ほんの?……まぁいいや)までは、どのメーカーのパソコンを買うかという問題は海外旅行でアメリカに行こうか、それともインドに行こうかぐらいの違いがありました。
パソコン業界で例えれば「A社製のパソコンはWordやExcelが使えるけど、B社製のパソコンにはそんなもん動くわけがない」ぐらいの違いでしょうか。
今ではだいぶ壁は低くなってきましたが、Windowsとマックのような違いが全てのメーカーに存在していました。専門用語で言えばメーカー間には"互換性"がありませんでした。
そのためどのメーカーのパソコンがあり、それぞれの特色は何かを知ることは非常に重要でした。
「パソコンの上手な選び方」でも、最初に「PART1 どんなパソコンがある?」としてそれぞれのメーカーのパソコンを紹介しています。
この本の内容を追うことで、当時の雰囲気の一端でも垣間見ることができればと思います。
優等生タイプのPC-9801シリーズ
パソコンを使うには、ソフトが必要だ。(中略)ということは、市販ソフトの数が少ないと、やりたいことが制限されてしまうのだが、その点、日本電気のPC-9801(略称98)なら心配はいらない。
初代からずっと最新機種まで"互換性"を大切に、圧倒的な対応ソフト数を武器に日本国内を席巻していたPC-9801シリーズ。
日本でシェアNo.1だったのですから当然、この本でも取り上げないわけにはいきません。もちろんトップで取り上げてくれています。さすが98。98最高。
おまえこれが言いたいがために今回このネタを採用したんじゃねぇだろうな。というお叱りの言葉を頂きそうですが、全くもってその通りです。
まぁ弱点を強いて挙げれば、弱点がないことかな(笑)……というのは冗談として、やはり全てそこそこ及第点を取っていることから「特徴がない」という批判はありました。
それから圧倒的なシェアを背景に殿様商売的に高価だったことですかね。
98用のソフトが使えるエプソンPC
PC-9801には「互換機」というものがある。これは、PC-9801用のソフトウェアが使えるパソコンで、本家のNEC以外のメーカーから発売されているもの。
98の互換機といえば、エプソンが有名だ。(中略)発売当初の頃は完全には動作しないソフトウェアもあったようだが、今ではまず問題なく動くようになっている。
「エプソンってプリンタ作っているところでしょ?」と思うかもしれませんが、昔はPC-9801シリーズの互換機メーカーとして有名でした。
当時日本のパソコンはPC-98の一党独裁状態。「98に非ずんば人に非ず」と我が世の春を謳歌していた(自分もその一味ですが)PC-98の牙城をどう崩すか、他のメーカーは知恵を絞っていたことでしょう。
そんな中でエプソンが取った道は「ハードウェアごとPC-98をエミュレートする。そしてその互換機を低価格で販売する」といったものです。
お子様だった私には当時の裏事情までは知る由もありません(この本にはそんなこと書いてない)。
このエプソンの低価格互換機戦略に大層ご立腹だったようです。NEC側が著作権違反だと裁判を起こしたり、「エプソンチェック」なる小細工を埋め込んだりと、このNEC対エプソンの戦いは泥沼だったようです。
手に入りやすくなったマッキントッシュ
マッキントッシュ(略称マック)は、米アップル社のパソコン。アイコンとウィンドウによるマウス操作で、簡単で覚えやすい、先進的なパソコンとして熱狂的なファンの多い機種だ。
当時持っていたマッキントッシュの認識は「マイナー」「だが作曲や出版関係、デザイン部分に強い」ということでしょうか。現在でも出版関係やデザイナーの多くがマッキントッシュを使っていることは、当時の認識はあながち間違ってはいなかったようです。
ただやはり最大のネックは高価だったこと、周囲にユーザが誰もいなかったということでしょうか。「金喰いリンゴ」なんて揶揄していたのを思い出します。
AVパソコンといえばX68000/FM-TOWNS
パソコンのグラフィックス機能を見る指標の一つに、画面の同時発色数というものがある。
(中略)
PC-9801では、特殊なハードウェアを追加しなければ16色だが、これをはるかに上回るのがシャープのX68000。X68000の同時発色数はなんと6万5536色。
(中略)
しかしFM-TOWNSといえば、何といっても特徴的なのが、大容量のCD-ROMを標準搭載していること。そのため、ソフトウェアもこのCD-ROMをうまく利用したものが多くそろっていて、「広辞苑」や「英仏独日辞典」などがCD-ROMで利用できる。
PC-98帝国の牙城を崩すべく、富士通とシャープが取った戦略が「ある機能に特化する」ということでした。
X68000はゲーマーに人気がありました。また「マルチメディア=CD-ROM」という概念をユーザに擦り込むことに成功したFM-TOWNSには筆者も憧れました。両方とも黒塗りのデザインも格好良かったし。
特にプログラムが得意な高校の同級生がFM-TOWNS上でシューティングゲームを作っていたので「デキる人間はFM-TOWNSを使う」というよく解らない思考がずっとありました。
そのため筆者にとってFM-TOWNSはライバルであり嫉妬の対象でした。
IBMのパソコンといえばPS/55Z
ところで、世界でもっとも台数の多いパソコンは何だろう?「PC-9801」と答えたあなたは、世間知らずだ。 世界に目を向けると、何といっても「IBM PC」とか単に「PC」と呼ばれるIBM社のパソコンが圧倒的な"世界標準"だ。 ただし、これは互換機メーカーのパソコンも含めての話。
パソコンを紹介する「PART1」の最後に載っていたのがこのIBMでした。現在のWindowsの前身であるMS-WINDOWS3.0が動くのは魅力でしたが、当時は「舶来かぶれのキワモノが使うパソコン」という印象しかありませんでした。
いや、しかしこの一番最後に申し訳程度に紹介されていたパソコンの子孫が後に日本中を席巻するかと思うと……世の中というものはわからないものです。
黒船前夜
この本が出版されたのは1991年。
写真にも少し載っていますがDOS/V機に日本語MS-Windows3.0が搭載された年でもあります。
黒船襲来によって江戸幕府が崩壊したように、この2年後の1993年にいわゆる"コンパックショック"が起こり、PC-98帝国が次第に崩壊していく……この本はまさにそんな黒船襲来の前夜とも言える時代の空気を感じさせてくれます。
それでは当時のソフトウェアはどうだったのでしょうか?
その辺り紹介はまた次回にでも。