第5回 蘇る日本語ワープロ書院(2)

蘇る日本語ワープロ書院 リボンカセット

骨董品データ

商品名 リボンカセット(黒)
製造元 シャープ株式会社
価格 600円
コメント ワープロで印刷するには欠かせない消耗品の一つ。

セーブ/ロードは一発勝負

作成した文章は手元に残しておきたいと思うのが誰しも考える当然の心理。
今だとフロッピーディスクあるいはMOやCD-Rに保存したりするのではないでしょうか。
そして今はよほどのヘマ(ディスク入れ忘れとか)をしない限り"セーブに失敗する"ことはないと思われます。

この書院WD-120Bにも作成した文章をセーブする機能はもちろんあります。

・・・保存先はカセットテープですが。

当時は3.5インチのフロッピーディスクなんてなかったのでカセットテープにセーブするのが業界標準。
やり方はとっても簡単。
ウォークマン等の小型のカセットテープレコーダーに入力端子と出力端子をつないで、ワープロ側で"登録"選択。
登録名を入力して、カセットテープレコーダーの録音ボタンをプッシュするだけ。

ワープロ 書院 取扱説明書
fig 5.1 登録、呼出機能(取扱説明書より)

すると、
「ピ~ヒャララ~ピガーピガー」というなんとも怪しい音が聞こえ、文章データがセーブされる...らしいのです。

ところがこのピ~ヒャララ~という状態がいつまで経っても終わらないんです。
しびれを切らしてセーブを途中で中断(←この時点で明らかに失敗なのですが、当時はわからなかった)したことが何度もありました。

カセットテープに保存できたかどうかは読み出してみればわかるのですが、ところがこのワープロの仕様として「ロードするためには文章を全て消去しなければならない。」となっているのです。

ワープロ 書院 取扱説明書
fig 5.2 全てはセーブに成功する事が前提条件...(取扱説明書より)

つまり、セーブに失敗すれば作った文章は全てパーという状況になりうるのです。
まさにセーブ/ロードは一発勝負。

...いったい何回セーブに失敗して泣いたことか。

リボンカセットは2回よみがえる

 現在主流の家庭用プリンタはインクジェット方式ですが、この書院WD-120Bをはじめ当時のワープロはリボンカセットを使っていました。
(これを「溶融型熱転写方式」と言います。今でもアルプス電気など一部のプリンタで採用されています)

ワープロ 書院 WD-120
fig 5.3 リボンカセットを装着したところ

リボンカセット1個600円。
また1つのリボンカセットは単色なので、カラー印刷をするにはそれぞれの色のカセットを買わなければなりませんでした(しかも金色と銀色は割高...)

ワープロ 書院 取扱説明書
fig 5.4 リボンカセットラインナップ(取扱説明書より)

今の小学生にしてみれば600円なんて大した金額ではないかもしれませんが、当時の私にとっては超がつくほどの大金。ホイホイと買えるようなシロモノではありませんでした。
"リボンカセット1cmは血の一滴"まさにそんな状態。

リボンカセットは高い。でも印刷はしたい。
このジレンマをどう解決するか、小学生ながら必死で考えました。

リボンカセットは印字する文字だけ熱で溶かされて紙に転写される。
言い換えれば文字じゃない部分はインクが残っているはず。

書院 リボンカセット
fig 5.5 リボンカセットを見れば何を印刷したのかバレバレ

そうか。
カセットを巻き戻して使えばいいんだ!

小学生にしてはグッドアイディア(実はワープロを所有している大人はみんなこの手法を知っていた)

かくして何回リサイクル(=巻き戻し)できるかが勝負となりました。
さすがに2回巻き戻すともう何を印刷したのか判らない状態になるうえに、当時の手動巻き戻し技術(?)ではリボンがヘロヘロになってしまい、リサイクル中にリボンが切れたりしたため2回以上のリサイクルは無理がありました。

文章を書く楽しさ、作る喜び

今は現役を引退して押入れに眠っているこの書院ですが、結局筆者が高校時代の間は故障する事もなく活躍してくれました。
特に高校時代はクラスにいた気になる女の子のために、文化祭でクラスの出し物である演劇の手書き台本を徹夜で清書して印刷したものです(もちろんリボンカセットは新品購入)
...今だったら絶対やらないけど。

筆者は文章を書くのが好きです。
おそらくその原点が、この日本語ワープロ書院にあるのではないかと思うのです。
自分で考えて書いた文章が印刷する事によって綺麗な文字として形になる-。また人から仕事を依頼されて、美しいレイアウトで表現出来たときの満足感と人から「ありがとう」と言ってもらえる喜び。
そんな小さな経験の積み重ねが、文章を書く楽しさに繋がっていったのだと思っています。