ここ2年間、健康診断というものを全く受けていなかった。なのでこれを機に消化器系検診に申し込んでみた。
消化器系といえば胃腸。胃腸といえばバリウム。
実はいままで噂には聞いていたが、バリウムというものを飲んだことがなかった。
これは体験した人はきっとわかってくれる消化器系検診録である。
会場に着くと駐車場にバスが停まっていた。
入口にはカーテンが閉められていて、中の様子は判らなかったが、時間が正しいことを確認して中をのぞいてみる。が、誰もいなかった。
声を掛けると奥から白衣をきたオッサンが「ああ・・・・すみません」と言いながら出てきた。やる気を感じない。
程良く冷房が効いているバスの中は3人掛けの後部座席と簡単な洗面台が設置してあり、奥には扉があった。扉の奥には何かあるようだ。結構狭い。
しゅわしゅわ
オッサンは簡単に受診票を確認し、小さなフィルムケースに入った白い粉を飲むように言ってきた。
オッサン「粉薬と同じように飲んで下さいね~。口の中に残るとカニが泡吹いたようになってしまいます」
よくわからないまま、白い粉を口に含み水で一気に流し込む。
しゅわしゅわしゅわしゅわ・・・・・・。
刹那。
胃がなんとも気持ち悪くなる感覚に襲われた。
胃が急激に膨張しパンパンになった。行きどころがなくなった空気が胃から食道に一気に溢れでる。酒飲みすぎてスクランブル発進。
オッサン「ゲップが出そうになったら深呼吸してくださいね~」
そんなこと言われても!
こっちは胃から容赦なくせり上がってくる空気を堪えるのに必死。オッサンのアドバイスに返事をする余裕もなくなり、ひたすら深呼吸を繰り返す。深呼吸と言っても口を開けた瞬間 終了しそうなので鼻から息を吸い、鼻から息を吐く。
正直つらい。
オッサン「胃が膨張してくるのを感じるでしょう~。次はこれをゴクゴクと飲んで下さい」
なぜか"ゴクゴク"という言葉を強調された。
さっきので終わりかと思いきや、今度は紙コップに半分ぐらい液体が入ったものを渡してきた。
早く終わらせたい一心で、液体を一気に飲み込・・・・・・めない。この粘度Maxな液体はいったい何だ。
オッサン「決して飲みやすいものではありませんが、頑張って全部飲んで下さい」
もうね、これは拷問かと。
オッサンの言葉に反応する余裕すらなかった。ドロドロした液体を数回に分けてパンパンに膨れ上がった胃に強引に流し込んだ。
オッサン「はい、ではこちらへどうぞ~」
オッサンは奥にある扉に入るように促した。ただ首をカクカクと縦に振ることしかできなかった。
グルグル
小さな部屋だった。
ドラマで見るような取調室を思わせる大きなガラス窓があり、目の前には手すりがついた鉄製の板が鎮座していた。
どうやらこの鉄の板の上に寝ろということらしい。
こっちは喉からせり上がってくる空気を堪えるだけでいっぱいいっぱいである。早く終わらせたい一心で無言で仰向けになった。
ちなみにここでゲップをしたらどうなるのだろう。もう一度、発泡剤からのやり直しなのだろうか。考えただけでも恐ろしい。
突然、天の声が聞こえた。これぞ天啓である。
・・・・・・実際はスピーカーから、何か雑音が聞こえた。
「@*#!(%3?>!」
早く検査が終わらないものだろうか。
と、いうか。自分には悠長に考えている余裕はどこにもなかった。
「終われ!終われ!終われ!」
ひたすら念じていた。
「>?6@%*!(#!」
たのむ!早く始めてくれ!
もはや我慢の限界だ。
「もしもし、聞こえますか~?」
ここでようやく、自分が呼びかけられていることに気がづいた。ゲップを我慢するのに一所懸命で全く耳に入っていなかった。
無言で手を挙げて返事をする。
板の上で体を2回転させろ、と指示された。
これこそ無茶振りである。
少しでも体を動かそうものなら、水量MAXのダムが決壊しそうである。しかもその場で2回転する意味が分からない。
まな板の上でビチビチ跳ねる鯉のようだったが、不器用にジタバタと2回転させた。
「それでは始めます。手すりにしっかり掴まってください」
ここからの記憶はあまりない。
なぜなら、鉄の板がグイングインと動き出し、頭が下になったり、足が下になったり、横向きにされたり、もう何がどうなっているのやら。
途中うつ伏せになれだの仰向けになれだの指示され、そのたびにジタバタと体の向きを変えたりした。
終了
「はい、終わりでーす」
・・・・・・戦い抜いた。
ゲップを耐えきった。
この瞬間、ついに自分に勝利したのだ。
ふらふらしながら検査室を出ると、おっさんが出迎えてくれた。もうゴールしていいんだよね、もうゲップしてもいいんだよね。
次の瞬間、長い長いゲップを吐き出した。
バリウムを出すための下剤をもらって解放された。酷く暑いのにセミの声が心地よかった。
もうやりたくない。
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