今でもふと蘇る。
走っているときの絶望感。
何とかしてゴールだけはしなければという義務感。
ゴールしたときの達成感(?)
あまり読んでいる人なんていないだろうと思っていたが、意外と気にしてくださる人が多かったので記しておきます。
八王子夢街道駅伝参戦緑の完結編。
高まる緊張感
夢街道駅伝は散田架道橋のところで走者4人全員を応援できるコースになっている(1走はゴール、4走はスタートだけ)。
2走のA先生(体育科)の時までは、気持ちが幽体離脱していたのか一般市民の1人として気楽にしゃべりながら沿道で応援したのだが、 3走のT先生(社会科)にタスキが渡ったあたりで「そろそろ行った方がいいんじゃないですか」と応援に来ていた先生に言われ、 ふと我に返った。
駅伝全般がそうなのかもしれないが、夢街道駅伝は今どういう状況になっていて、待っている選手はどうしなければいけないのかというアナウンスは一切ない。
どう動いてどうすべきかは選手が自主的に動かなければいけない。
そんなこと言われたって経験者じゃないんだから、どうすればいいかわかるわけないじゃないか。
……そういえば監督者会議に参加した2走のA先生から何時頃どこ集合という紙をもらった様な気がしたことをふと思い出した。
今思い出すということは、そんな紙とうの昔にどこかへやってしまったw
超まずい。
とは言っても4走がタスキを貰う場所はだいたい把握している。
だいたいの時間にその人だかりのあたりに行けばいいんだろぐらいにしか思っていなかった。
3走のトップ選手あたりが駆け抜けていった頃、私はランナーがわんさか集結している場所へ向かった。
いよいよ自分の番が回ってくるのか……いくらタイムは関係ないとは言え死刑執行を待つ身、緊張するなという方が無理な話だ。
もうこの時には緊張も高まっていて、負のゴールデンプランなどどこかに消し飛んでしまっていた。
4走は選手が走る道路を渡って、真ん中の島で待機する。
通行人に交通整理の指示を出している係員のおばちゃんは、自分の姿を目ざとく見つけると「えっ~!?まだ集合してなかったの!?」と
嫌味かというほど大げさに驚かれた。
どうやら遅かったらしい。
混乱のタスキつなぎ
全ての部あわせて約500人が走る駅伝で、どうやってタスキを貰うのか-。
道路の真ん中の島で他の選手たちと、満員電車のような密度で待っていると、放送でひたすらゼッケン番号を呼ばれる。
自分のチームの番号を呼ばれたらスタートラインに行く。数分以内に3走がやってくる……という仕組み。
「416…53…280…619…」
刑務所の囚人のように番号だけがひたすら呼ばれていく。600番台まである番号だ。自分の番号が呼ばれたのかどうかすら怪しくなってくる。
不安から自分の胸についている番号を何度も確認する。
放送で呼ばれても現れない選手は、係員が怒鳴りつけるように番号を呼び続ける。
合わせて自分の番号をしっかり確認するようにと何度も注意される。まるで言うことを聞かない生徒(我々)が指導されているようだ。
中継所はそんな殺伐とした雰囲気の中でタスキ渡しが行われている。
現に恐れをなして逃亡したのか、番号を呼ばれたのに最後まで気付かなかったからか4走が現れず、タスキを運んできた選手が
渡すべき仲間がおらず慌てふためいている姿も見てしまった。
これはこれでかわいそうだった。
……ふと自分のチームの番号が呼ばれた。
慌ててゼッケンを見た。
間違いない。合っていた。
予想外に早く呼ばれたことに驚いた。
1走のときはビリから50番ぐらいだった。それが2走、3走の先生で巻き返していたらしい。
急にどうしようもなく心臓がバクバク言い出した。
心の準備ができていないのに、それこそ執行台で首に縄をかけられた気分。
頭の中が真っ白で何も考えられなくなっていた。
スタートラインに立つと架道橋の坂を苦しい表情を見せながら上がってくるT先生の姿が見えた。
私は彼の走る距離が少しでも短くなるようにと片手を必死に伸ばして、柄にもなく"大丈夫だ"という意味の笑みを浮かべて大きくうなずいた。
T先生も一瞬、微笑みを返したのがわかった。
テレビで駅伝中継を見るとタスキを待っている選手がみんな手を振って、片手を必死に伸ばしているのは、きっとこんな気持ちなんだな。
初めてわかった。
孤独な戦い
タスキを受け取った。
私は後ろを振り向くことなくゴールへ向かって足を踏み出した。
沿道から大声援が送られる。会ったこともない人からワーワーと声援が送られる。もうリタイアできないな……ふと思った。
すぐの交差点を右に大きく曲がり国道20号を八王子駅に向かって走る。
最初にしたことはもらったタスキを肩にかけることだった。
箱根駅伝が好きで毎年沿道観戦とテレビ観戦をしている。よく”タスキの重み”などと言われるが、リアルでタスキが重いのだ。
タイムを計測するために布のタスキにプラスチックの小さなケースがつけられていて、その中にICチップが入っている。
そのプラスチックの小さなケースが走っているとブラブラ揺れて、邪魔で走りにくいことこの上ない。
プラスチックのケースを手で引っ張って抑えるようにして走らなければいけなかった。
「マラソンで息継ぎは短く2回吸って、2回吐くのがコツなんです」
-これは自分が小学校時代に先生から習ったこと。
「マラソンはいかに体力を消費しないバランスを保って足を前に出すか」
-これは前の職場で走ることが大好きな美術の講師の先生から教わったこと。
これまでの人生で色々な人から教わったことを思い出しながら、リズムよく足を前に繰り出すことだけに専念する。
横で誰も話しかけてくれない。誰もアドバイスをくれない。長距離とは自分との孤独な戦いだと思う。
だから走りながら色々なことを考える。考えることで「つらい」ことを忘れようとする。
夢街道 駆け抜けろ
我がチームのユニフォームは実によく目立つ。
蛍光ピンクというまず店に売っていないであろうユニフォームにでかでかと学校名が書かれている。
「応援する人が遠くからでも見つけやすいから」という、選手のことを考えていない理由らしい。
着るのがさすがに恥ずかしい色ではあるが、文句も言ってられない。
そしてどうやらこの色が他チームからターゲットにされているようなのだ。
走っていると後からハッハッと激しい息遣いが聞こえてくる。後ろを振り返る余裕はない。ただ前を向いて走る。
その息遣いは他チームの選手のもの。自分も一生懸命走っているものの、追いつかれてあっという間に抜かれる。
そのまま抜いていって先を走ってくれればまだ諦めがつくものの、自分を抜いた瞬間、力尽きたようにペースが落ちる。
中途半端に並走状態になる。こうなったらこっちも負けたくない(←ロクに練習もしていないくせにプライドだけは高いw)
こうなってしまうと無駄に体力を消費する。かといって再び抜き去る体力も気力もない。苦しい時間だけが流れる。お互いに無言の駆け引きとバトルが始まる。
残念ながらこちらは練習不足なので最終的には差をつけられて負けてしまうのだが……。
そして沿道からの応援も結構わかるものだ。
ただの「ガンバレ~」という声はよくあるその他大勢の声として認識され埋没してしまうのだが、「○○○(←自分の職場名)ガンバレ~」という声は結構聞こえる。
声をかけてくれた人を目線で探すこともできる。知らない人でも手を振って応えるぐらいはできるものだ。今にも吐きそうなのに。
2~3人ほど知らないおばちゃんから声を掛けられた。
栄光のゴールテープ?
とにかく4.1kmの道のりをなんとか走りきった。
FINISH間際で後ろから猛追してきた選手に負けるものかと、こちらもラストスパートをかけて最後20mぐらいはデッドヒート。
心臓が口から飛び出す思いだった(結果は同着)。
FINISH地点では職場の仲間や応援の人たちが大勢待ち構えていて、ゴールした瞬間一斉に駆け寄ってきた。
口々に「すごい」「よく頑張った」と労わりの言葉をかけてくれ、私は辛かった道のりから解放されたことと、みんなからの優しさと温かさに感動して思わずもらい泣き。
そしてみんなで”サライ”を歌う
……という幻を見たw
FINISHしても応援どころか誰もいない。
係員に「はいはい、そのまま進んでくださ~い」と誘導され、歩いている途中で「タスキはこちらへどうぞ~」とタスキも没収された。
ぞろぞろ人の流れについて歩いていくと、いつの間にか朝の集合場所 南多摩中等教育学校の敷地内を歩いていた。
気持ち悪くてその場に倒れ込みたかったが、そんなスペースもない。
というか労ってくれる人が誰もいない。何という虚しさ。血を吐く思いで全力で走ったのは何だったのだ。
朦朧とした意識で歩いていると、テントで「おしるこどうぞ~」と声を掛けられたので、並んでおしるこを受け取る。
疲れた体におしるこは美味かった。スポーツドリンクも配っていたのでそれも受け取った。
こうして私の夢街道駅伝は終わった。私の記録は216人中127位。タイム18分32秒(1kmあたり4分30秒)。3回しか練習していないシロウトにしては、まぁまぁの記録かもしれない。
チームとしてもタスキをつないで216チーム中で100位以内には入れた。
お疲れさまでしたのお土産
大会参加者にはもれなく参加賞がもらえた。
あと何かパスタもあったのだが応援に来た人たちにあげてしまった(八王子ラーメンもあげてしまったが、記事を書くためにスーパーで買い直した)。
さらにサングラスが超安く買えるチケットもあったらしいが、もらっとけばよかった~。
・・・・・・・・・・。
今でもふと思い出す。あの苦しい18分間を。
富士山と同じで登っている最中は「二度とやるか!」と思うのだが、終わってしまえば「もう1回やってもいいかな」などと思ってしまう。
でもあの苦労を思い出すと……。
もう引退でいいでしょ!
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