お断り:この記事にはかなり不快な内容が含まれております。お食事をしながら読むのはご遠慮下さい。
トイレ特急は目の前で満席。いつも通り急行で帰宅するハメになった私は、座席を確保しようと列が少ない所に並んだつもりが……。
そんな些細な日常の話の後編。
ドアが開いた瞬間。後ろに並んでいる人間に割り込みされぬようブロックしつつ、 かといって自分から列を乱すことのないよう(※1)足早に乗車。
(※1)自分から列を乱すことのないよう……非常時とはいえ節度を守る日本人なので。
危ないところだったが日頃の実戦のたまもの。なんとか座席を確保することに成功。しかし空いていた座席は簡易席(?)だった。 よくわからないが他の席とは違い、板張りに布を敷いただけの粗末な席。 要するにクッションがないため板の上に直接座らされているのと同じ。 また簡易に設置しただけなので立て付けが悪く、端のオッサンが座り直すとその衝撃がこちらにダイレクトに響いた。
これでは眠るどころではない。はっきり言って拷問だ。
かと言って今さら降りることもできない。一刻も早く帰りたかった。こうなったら一蓮托生。 この粗末な座席に自分の運命を託すほかなかった。というか、 出発直後から腹の中は臨界状態。ケツから制御棒が抜け落ちそうだった。
目を瞑って必死で眠ろうとするが、やはり粗悪な座席が原因で眠れやしねぇ。 そして端のオッサンが座りが悪いのか(←気持ちは分かる)が、よく座り直すオッサンだった。 そのたびに衝撃がダイレクトに伝わり、私の意識を呼び覚ます。
唯一幸運だったのが粗悪な座席の上でじっと堪えていたために尻が痛くなり、そのおかげで腹に意識がいかなくなったことか。 裏を返せばもうそれほど余裕のない状態だったとも言えた。
途中腹痛の大波が幾度となく襲来してきた。小さいのが引いたかと思えば、中規模のものが襲ってきた。 そして突如、大規模な津波が……。眠れない私は電車がホームに停車するたびにアナウンスを聞き「あと何駅、あと何駅」と指折り数え、自分を必死に励ましていた。 そしてそのあまりの駅の多さに絶望することもしばしば。
これを幾度となく繰り返してきただろう。なんとか津波をやり過ごし小康状態になってきた。 そしてふと目を開けると、私の2つ隣に座っているオッサンの前に立っていた若い女性が明らかに体調が悪そうにしていた。 様子を察するに腹をさすっているため私と同業者らしい。
見てしまった。気づいてしまった。が、見て見ぬ振りをした。つまり見殺し。 いくら小康状態とは言え、またいくら相手が女性だからとはいえ、商売敵に席を譲るほど心の広い人間ではない。
目を瞑り眠りるために精神を集中する。眠るなら小康状態である今がチャンスだ。
しかし粗悪な座席はなかなか私を眠りに誘ってはくれなかった。 そして再び目を薄く開けた瞬間、いくら無神論者の私でもこの世に神はいるのだと悟った。
なんと腹をさすっている若い女性が私の目の前に立っていたのだ。
……無神論者が悟った神は"悪霊の神々"の方だが。
あまりの状況に目の前がクラクラした。例えばその女が腹痛に耐えきれずにその場に座り込んだとする。 すると席を譲るのは誰だ。目の前に座っている自分ではないのか。周囲の視線もそれを期待するに違いない。 そんな時に「実は私も体調が悪いんです……」などと真実を話しても誰が信じてくれようか。 席を譲りたくないがゆえの見苦しい言い訳と思われるのがオチか。
いったいどうすれば……いくら考えても結局どうすることもできなかった。
しかしなんという幸運。電車がちょうど大きな駅に停車し大量の乗客が下車した。そして座席がいくらか空いた。 その女性の異変に気付いた他の乗客が席に座るよう勧め、その女性は勧められた席に座った。
助かった……。車両追放という最悪の事態は免れた。安心した途端、津波の第2波が襲ってきた。 一時は総崩れ(←途中下車)も考えたが、一度下車してしまえば次に座ることは叶わぬ。 立ったまま目的駅まで耐えることは不可能と思われた。
幾度となく襲ってくる波に腿をつねり、唇を噛みしめ、耐え難きを耐え忍び難きを忍んだ苦難の時間。電車はやっと目的駅に滑り込んだ。
やっとの思い出下車した私にはここで2つの選択肢が考えられた。駅のトイレに駆け込む安全策。 または一気に自宅まで突っ走る(所要時間:徒歩5分、車15分)策。
幸いなことに現在は小康状態。自宅まで突っ走る選択も十分可能だと思われた。
しかしここで重大な懸念点があった。駅のトイレは和式。ここで耐え難きを耐えた恨みを一気に晴らすと散弾銃状態になりかねなかった。 そうなっては目も当てられない。ここは自宅まで一気に突っ走る選択に決定。
最寄りの駐車場までは徒歩5分。なんとか耐えきった。そして車を飛ばす。最速(最小限の赤信号で走破する)ルートは頭の中にインプットされている。 しかしその最速ルートの細い裏道。こんな非常事態に限って前を走っている車がトロい。 馬力にある車に乗っているんだから、もっとスピード出せっ!ばかやろう。ハンドルを握りながら悪態をついた。 そして後ろから煽りまくった。もう非常事態宣言。
やはり神は最後まで見捨てなかった。 この苦難と困難の末にようやく自宅に転がり込み……。私はようやく一息つくことが出来たのだ。
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