「イノシシとトサカ野郎は弱すぎて面白くないのじゃ。もっと強いモンスターはおらぬのか!」
最初はあれほど”こんな操作していたら指が攣る!”とか、”あまりの凶暴なモンスターにただ闇雲に剣を振り回しているだけ”など。 この先思いやられるような状態だったのですが、慣れとは恐ろしいもの。毎日せっせと【ドスファンゴ】(※1)と【ドスランポス】(※2)を討伐している内にモンスターの行動パターンが読めてしまい、次第に退屈になってきました。
(※1)ドスファンゴ……イノシシの化け物の名前。「第5日目:猪たちの長を狩猟せよ!」参照。
(※2)ドスランポス……青い色をしたトサカ野郎の名前。「第4日目:青き狩人の生息地」参照。
かと言って、今のところ村長から依頼される仕事はこの2匹のモンスターの討伐だけなので、来る日も来る日もこの2匹を狩るしかないわけです。 モンスター討伐の報奨金は、どれだけそのモンスターが狩られたかによって変動する(※3)のですが、あまりにも狩りまくってしまったために供給過多で価格も暴落状態に。
(※3)変動する……市場に出回る野菜の値段が豊作時には暴落するのと同じ。
「ええい!つまらぬ、つまらぬぞ!」
そんなある日。とあるジジイが村の中で【調合屋】を開業するらしいという噂を耳にしました。
「……村の隅に変な乞食がいると思っておったのだが、まさか【調合屋】だったとはな」
【調合屋】とは、どういう類の店かいまいちよく判りませんが、恐らく集めてきた【素材】を組み合わせて別の【素材】を作る錬金術師の一種なのでしょう。 胡散臭いニオイがプンプン漂ってきます。
早速そのジジイに話しかけてみました。
ジジイ「おーう。ふがふが。誰じゃ、お前さんは。わしの孫によう似とるがこの村の者かいの?」
適当な関係者に例え、親近感を抱かせて客のガードを取り払う。そして高額商品を売りつける。悪徳業者が好んで使いそうな手です。 ちなみにこのジジイ。いつもこの角度で立っているので、その顔を窺い知ることは出来ない。
話を聞いてみると、どうやらこのジジイ。【調合屋】を開業したいらしいのだが、開業資金がないらしい。 そのため何種類かの【素材】が欲しいらしい。
「……開業計画が杜撰な上にアイテムの無心か。物乞いめ、虫が良すぎるわ」
自慢の剣で一刀両断に切り捨ててやろうかと思いましたが、天の声が「【素材】を渡さないと話が進まないぞ」と盛んに囁く。 危険なモンスターの目をかいくぐりながらせっかく苦労して集めた【素材】をなぜこの乞食に渡さねばならないのかと、かなり不満に思いましたが……。 しょうがなく恵んでやることにしました。
せっかくの【素材】を恵んでやる代わりに、見返りに何をくれるのかとワクワクしながら期待していましたが、 返ってきたのは「この恩は、忘れずにしっかり覚えていなきゃならんのう!」などというふざけた言葉。 如何に舌先三寸でものを言っているのかよくわかります。恐らくその場を離れた瞬間に恩などキレイさっぱり忘れているに違いありません。
「……このジジイ、やはり信用できぬ」
【調合屋】のジジイとそんな丁々発止なやりとりをしていると、側を通りかかった村長が「やあ!キミもだいぶ腕を上げたみたいだな」などと話しかけてきました。
「……相変わらず調子の良いヤツじゃ」
話を聞けば、この村長も何種類かの【素材】が欲しいらしい。この村の住民は物乞いばかりなのか?
どうやらその【素材】を元手に資金を集め、ジャンボ村を大きくするのが夢らしい。
黙って話を聞いていれば、熱にうかされたようにジャンボ村発展事業への夢を語ること、とどまるところを知りません。 しかもその資金があれば酒場を改装して水車まで作れてしまうなどという根拠のない皮算用を得意げに披露してくれます。 どうやらこの村長には自分が間違っているなどという思考は持ち合わせていないようです。 この手のタイプは胡散臭い宗教にハマった人間に見受けられます。
幸いなことに村長が欲しがっている【素材】は既に持っていました。これ以上、事業への夢を語られるのも鬱陶しいので、 とっとと【素材】を渡すことにしました。
すると村長大喜び。かならず村を発展させてみせると得意げな様子で去っていきました。
数日後。狩り場【密林】の他にも【砂漠】への行路が開けたという情報がジャンボ村にもたらされました。 どうやら【砂漠】には【密林】以上に強いモンスターが跳梁跋扈しているらしいのです。 強い敵相手に否応なしに緊張感は高まります。
いざ、新天地【砂漠】へ!
「これからが狩りの本番じゃ!」
(つづく)
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