担任として初めての卒業生を送り出した。
正直まだ実感が沸かない。
この卒業式は練習で、普通に休み明けの朝学活で「おはようございます」と挨拶しているんじゃないか、
そんな感じ。
これまで散々に暴言を吐かれ罵倒され、一刻も早くオサラバしたいと思っているヤツも、 たわいもない話に花を咲かせ、活動によく取り組んでずっといて欲しいと思う子も、みんな巣立ってゆく。
自分で言うのもアレだが、結構涙もろい方だ。
今の学校に採用されて、はじめての卒業式は自分とはほとんど関わりのない学年だったが、 セレモニーで卒業生から部活のことで予想外に自分の名前が出て、感謝の言葉を述べられた瞬間に滂沱の涙。
その翌年も、さらにその翌年も、他学年の卒業式なのに、感動して泣き、今回の卒業式はどうなるんだろうか。 涙を流すだけじゃ済まないのかもしれないと心配していた。
子どもたちからも「先生は絶対泣くよ」などからかい半分に言われ「はいはい、絶対泣きませんから」と余裕の返しをしていたものの、 まぁきっと泣くだろうな。
ところで、卒業式を迎えるにあたって心配事が2つあった。
1つめは最後の学活で何を話そうか、ということ。
思えば自分が卒業するときに担任から何言われたかなど、これっぽっちも覚えていないので、どうでも良さそうなものだが、 やはりグダグダで終わるのは格好悪い。
卒業式当日は時間がほとんどないため、前日の最後の学活で担任として言葉を語ろうと、それなりに話す内容を考えていた。 ところが提出物やら通知表を渡している間に時間いっぱいになってしまい「じゃ!また明日。さよなら~」と帰してしまった。
……あとは当日しかない。
もう1つは、当日になって茶髪やら編み込みとか生活指導上の裏切り行為がないかということ。 これは生徒たちを信用するしかない、今までの指導がどれだけ彼らの心に響いているかの答えが、卒業式の朝分かるのだ。
前日は夜なべして、子供たちに卒業記念品の栞を作った。
クラスの掲示物の写真を撮り、それをプリンタで写真印刷してリボンをつけた簡単なものだ。
本当は栞の裏に一人一人へのメッセージを書きたかった。
けれども「こんなもんいらねーよ」と最後の最後になってゴミ箱に投げ捨てられるのが怖く、
またどうにもメッセージが思い浮かばず、さらには睡魔に負けてしまい、結局ダメだったorz
当日の朝を迎えた。
朝早くいつもどおり教室に掃除に行くと、誰が書いてくれたのか黒板にでかでかと「(自分の名前)先生 1年間ありがとうございました!卒業!」と書いてあった。
この3年間毎朝欠かさず、黒板にメッセージを書き続けてきた。ま、もっとも読んでくれている生徒はクラスの3分の1もいなかったが ……あくまでこれは自己満足。
でかでかと書いてある隙間に「3Bと一緒に歩んだ203日。ありがとう。楽しかったです。(自分の名前)より」と書いた。
……本当は楽しくないことの方が多かったのだが、演出だ。
朝の職員打ち合わせが終わる頃、生徒が続々と登校してきた。あからさまな茶髪はいなかったものの、女子など微妙に髪にカールをつけてくるのとか化粧している女子が結構いた。
明らかな編み込みとか茶髪はほとんどなく、卒業式に向けての指導が通っていたと一安心。もっと生徒たちを信頼してもよかったのかもしれない。
朝学活はグダグダだった。
生徒たちのテンションは高く、しんみりと話を聞く雰囲気ではなかった。
この後の流れを説明した。
背筋を伸ばして、胸を張って、自信を持って歩こう、と訴えた。
式が終わった後、短時間だけど最後の話をしたいので、この時間までには教室に戻ってきて欲しいとも伝えた。
卒業式が始まった。
卒業証書授与のときに、担任の最大の使命である「呼名」をしなければならない。「△△」と名前を呼び、生徒が「はい!」と返事をし、卒業証書を校長からもらう。生徒の名前を呼ぶことを呼名という。
入学式のときに1人名前をすっ飛ばして呼名をしてしまい、テンパってしまった私だったが、卒業式の呼名にミスは許されない。 3年間生徒たちと接してきて、本当は名簿を見ずに呼名をするのが真の姿なのだろうけど、そんな自信はなかった。名簿で1人ずつ名前を指で押さえながら呼んでいった。不思議と緊張しなかった。
生徒が卒業証書を受け取るとき、入学当初の小さかった姿を思いだし、3年間でずいぶん成長したものだと感じた。
成長した姿やこれまでの歩みを思い返しながら一人一人の生徒の姿を目に焼き付ける。
自然と感動を覚え、思わずこみ上げてくるものがあった。
ところが……。
卒業証書を受け取るとき、わけのわからんパフォーマンスをする連中が続出。過去数年間、うちの学校では卒業式で壇上で意味不明なことを叫ぶ人間が多い。
"儀式"を教える以上、静寂な雰囲気の中で必要とされる以外の言動をして目立とうとするのは良くないことだ。
例年、ブッ飛んだ生徒たちが目立ちたいがために何か叫ぶ。「お世話になりましたー!」とか「ありがとうございました!」とか、そんな類の言葉。
ところが今年はブッ飛んだ生徒だけでなく、いわゆる頑張ってきた生徒たち--生徒会長とか学級委員までも言い出したからたまらない。
もう収拾がつかない。
えっーーー!?お前もかよ!
驚愕して、涙も引っ込む。
彼らは目立ちたいことよりも、ただ純粋に感謝の思いを伝えたかっただけなのだろうけど
……なんなんだ。
セレモニーも同様。
代表生徒たちの巣立ちの言葉は良い内容だ。これまでの行事の思い出が感謝の言葉で綴られ、これからの飛躍を誓う。
目を閉じて聞いていると、この子たちとももう会えなくなるのかと"別れ"の辛さに、またもや涙が……。
しかし卒業生全員が立っているステージを見れば、男子を中心にフラフラふらふらして落ち着かない。
後ろを向いたり、隣同士小突きあったり。しかもウチのクラスだ。
……しっかりやってくれよ。
何かやらかす(もう十分やらかしているけど)んじゃないかと、ハラハラして安心して見ちゃいられない。
またもや涙が引っ込む。
そんなこんなで涙が出たり引っ込んだり……最初の卒業式はこんな有様だった。
素直に感動の涙を流させて欲しいものだ。
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